2024年4月13日 朝日新聞「耕論」にインタビューが掲載されました
「ご飯食べてる?」 気になる子どものSOS、見逃さぬためには
夜まで公園で一人遊んでいる、小学校の授業がある時間に外を出歩いている、食べ物をねだる――。近所にちょっと心配な子がいる時、どうしていますか。東京都大田区で「れんげの会子ども食堂」を開く内田千香子さんに話を聞きました。
東京都大田区で、子ども食堂を開いています。
始めたきっかけは6年前の出来事です。近所の餅つきのイベントで、もの欲しげな顔でつきたてのお餅を見ている家族がいました。貧しく育ったゆえの勘で、生活に余裕がなさそうなのがわかりました。その子どもはお餅を食べたそうでしたが、その場にいた人に意地悪な言葉をかけられすぐもらえなかったのを見て、とても残念に思いました。「こんな時子ども食堂をやっていたら、『うちにおいでよ』と言ってあげられるのに」と悔しくて。翌日には知り合いに声をかけ、2カ月後に始めました。
私はその子どもの目を見た時に自分の子ども時代を思い出しました。貧しくて給食が主食でしたが、午前で授業が終わる土曜日は給食がなく、家には誰もいない。それで友達の家におやつを食べに行くのが習慣になっていました。しょっちゅう行くから、その家のお母さんにはすごく嫌われているのはわかっていました。子どもはそういうことに敏感ですね。学校の先生も、うちに問題があると気づいていたと思いますが、親身になってはくれませんでした。これが活動の原体験です。
今は子どもの貧困や虐待の問題が昔より知られるようになりました。とはいえ今も、学校の先生は一人一人に手が回らず、行政もそこまで親身になってくれない、と感じます。でも、それを埋めるように子ども食堂や交流スペースなどは増え、親御さんがインターネットでそうした支援につながりやすくはなっています。
活動では重い現実に直面します。相談のメールは午後11時過ぎからが多いです。役所は閉まっている時間です。失業や精神疾患で働けずにこれからどうしようと悩んだお母さんが、子どもが寝てから、すがる思いで連絡をくれるのです。
うちに来る子どもたちは、ヤングケアラーの子、いじめにあって居場所を求めている子、学習障害の子、DV(家庭内暴力)を目の当たりにして心が傷ついている子など、様々です。一見普通にしている子でも、悩み事などを相談できずに抱え込んでいることも多いです。気にかけていなければ見えにくい、不登校や引きこもりの子もいます。だからSOSを見逃さないことがとても大切です。
私は、心配なお母さんや子どもには、「ご飯食べてる?」「家では何して過ごしてるの?」と、ストレートに聞いてしまいますね。大人も子どももだんだん話をしてくれるようになります。自分のことを気にしてくれることが伝わるんです。
おなかをすかせていたり、学校のある時間や夜に外で1人でいたり。気になる子がいても、「立ち入ったことを聞いたら悪いんじゃないか」「踏み込んで大変な思いをするのは嫌だ」、と思う人もいるでしょう。でも、何か変だと気付いた大人は無関心にはならないで欲しいです。自分で抱えられないなら、地元の社会福祉協議会に「こういう子がいるんだけど、子ども食堂や居場所がないか紹介して」と相談するだけでも違うと思います。
私たちの活動は、食堂から始まり、無料塾やダンス、里山体験などへ広げています。子ども食堂といっても、食事やお弁当を提供して「じゃあ次は1カ月後ね」だけだと、居場所にはならないのではないかとも思うようになったからです。その子の好きなことを伸ばしたり人との関わりを育んだりしてこその居場所と考えて活動しています。
勉強が嫌いでも、目的や目標ができると勉強が好きになります。無料塾では「なぜ勉強するの?」「お友達はたくさん必要なの?」と子どもたちに問いかけます。友達と関わるのは苦手な子も、里山体験で自然に触れると、初顔合わせの友達と田んぼの周りを走り回っています。好きなことの発見や、自分で考えること、人との関わりが、子どもたちの生きる力につながって欲しいと思います。(聞き手・高重治香)
内田千香子さん
1961年生まれ。高齢者支援のボランティアを長年続けてきた。2018年から「れんげの会子ども食堂」(https://rengenokai.org 別ウインドウで開きます)として、子どもの居場所作りの活動を開始。
朝日新聞デジタル版はこちら
https://digital.asahi.com/articles/ASS4920SLS49USPT001M.html?iref=comtop_7_06
(C)朝日新聞社 無断複製転載を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。